・2-EAQ添加でユーカリパルプの収率UP!

・Fe欠損条件下でも植物の成長を促進!

・2-MAQ添加でタケパルプの収率UP!

・高度に変性したリグニンを水に溶かす

・燃えない樹脂

・電解重合


2-EAQ添加でユーカリパルプの収率UP!

蒸解液にアントラキノン(AQ)を添加すると、パルプ収率が向上することが分かっておりますが、その製造方法によっては、不純物が混入し毒性を示すことがあります。本研究では毒性がないことが分かっているAQの誘導体2-エチルアントラキノン(2-EAQ)について検討を行いました。
ユーカリ・ペリータ材を用いた実験から、2-EAQ添加によるパルプ収率の向上効果が確認されました。その理由について解析したところ、リグニンのγ位脱離が抑えられ、効率的に脱リグニンが行われていることが分かりました。

2-EAQ添加効果


・Influences of 2-ethylanthraquinone on lignin degradation in alkaline cooking of Eucalyptus pellita wood, Journal of Wood Science, 70, 34 (2024) DOI: 10.1186/s10086-024-02149-x

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Fe欠損条件下でも植物の成長を促進!

アルカリ性土壌により世界の農地の3分の1が鉄欠乏土壌とされ、これによって作物の収量が減少し、品質が低下していると いう問題が存在しています。鉄不足を補うため、現在は土壌に化学合成品のキレート剤(金属に結合し、植物への吸収を 促進する化合物)を添加する方法が取られていますが、これらは生分解性がなく、環境に対する負荷が非常に大きいばかりか、 重金属汚染を引き起こす可能性も指摘されています。
我々は硫酸リグニンをアルカリ水熱処理して得られた水溶化硫酸リグニン(HSAL)(高度に変性したリグニンを水に溶かす)が安心して使える土壌改質剤として活用できるのではないかと考え、研究に着手しました。
その結果、HSALは金属キレート能を持ち、鉄欠乏条件下であっても、HSALを添加することでイネ、トウモロコシ、 シロイヌナズナなどの単子葉および双子葉植物の生長を著しく促進できることを見出しました。

本研究で開発に成功したリグニン由来の成長促進剤

本研究で開発に成功したリグニン由来の成長促進剤

硫酸リグニン(SAL)はアルカリ水熱反応によって水溶性リグニン硫酸リグニン(HSAL)に変換される。この反応により、硫酸リグニンは解重合する とともに、メトキシ基の減少とフェノール性水酸基の増加を引き起こし、金属キレート能を有することとなる。

イネの水耕栽培実験(水道水のみ))

イネの水耕栽培実験(水道水のみ)

HSALを0.05%添加することにより、根の成長が2倍以上促進された。水道水に含まれるわずかな微量金属をキレートして、 効果的に根へ供給しているものと考えられる。

また、遺伝子分析やシロイヌナズナの変異体を用いた実験などにより、HSALによる成長促進メカニズムを解析し、多くの植物 に対してもHSALが優れた鉄キレート剤として働くことを証明いたしました。

HSALによる鉄のキレート作用とそれによる植物の成長促進作用に関する模式図

HSALによる鉄のキレート作用とそれによる植物の成長促進作用に関する模式

HSALはイネとシロイヌナズナの両方において、根の成育促進作用を示す。HSALはFe3+をキレート化することにより、効率的に 植物に鉄を供給する。シロイヌナズナでは、HSALでキレートされたFe3+はFRO2第二鉄還元酵素によってFe2+ に還元され、IRT1輸送体を通して植物細胞内に輸送される。イネ科植物では、Fe3+はHSALキレート複合体から放出され、 フィトシデロフォア(ムギネ酸)キレート複合体の形でYSLトランスポーターを介して根細胞に輸送されると考えられる。
* OPT3: 鉄のトランスポーターとして機能し、師部へのローディングを担う。
* IRT1: 根の表皮などの細胞膜(イネ科植物以外)に存在する金属二価陽イオン輸送体であり、鉄の場合、Fe2+を細胞内に輸送する。
* FRO2: 根の細胞膜表層(イネ科植物以外)に存在する鉄キレート還元酵素であり、Fe3+からFe2+へと還元する。
* YSL: イネ科植物は、フィトシデロフォア(ムギネ酸)と呼ばれる高親和性金属キレーターを分泌し、YSLトランスポーターによって鉄錯体を効率的に細胞内に取り込む。

HSALは、合成キレート剤に代わる環境に優しい金属キレート剤として有望であり、本成果は英科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。

この研究は東京農工大学、浙江大学、名古屋大学、佛山科学技術学院、中国科学院、ソーク研究所の共同研究グループで行われました。


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2-MAQ添加でタケパルプの収率UP!

タケは成長が早いため、バイオマス資源として非常に有望であるといえます。
今回、2-メチルアントラキノン(2-MAQ)添加によるタケパルプの収率向上を目指しました。
ソーダ蒸解にて検証したところ、0.06%(対タケ重量)添加で、パルプ収率が3%増加することが 分かりました(カッパー価17)。 収率向上剤として、これまでアントラキノン(AQ)がよく知られておりましたが、近年、変異原性あるいは発がん性の 可能性があるとの報告がなされております。
今回用いた2-MAQはチーク材に含まれている抽出成分であり、変異原性を示さないとの研究結果が示されていることから、 今後、非常に有望な添加剤であるといえます。

2-メチルアントラキノン(2-MAQ)


・タケのソーダ蒸解における2-メチルアントラキノン添加の効果, 木材学会誌, 69(1) 49-55 (2023) DOI: 10.2488/jwrs.69.49

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高度に変性したリグニンを水に溶かす

木材などの植物を硫酸などで加水分解を施すことにより、単糖を得ることができます。この単糖は発酵によりエタノールへ と変換でき、燃料や様々な化成品の原料となり得ます。
しかしながら、多量の酸加水分解リグニンも同時に副生することから、この有効活用が重要な課題となっておりました。 酸加水分リグニンは高度に変性しており、機能性物質への変換が難しいとされておりましたが、簡単な水熱反応のみで、 水溶化できることを見出しました。この水溶化することで酸加水分リグニンの反応性や利便性が向上し、今後様々な用途に利用できると 考えております。

酸加水分解リグニン


HSAL


・Industrial utilizations of water-soluble sulfuric acid lignin prepared by hydrothermal treatment as flocculant and dispersant. Journal of Wood Science, 65, 18 (2019). DOI: 10.1186/s10086-019-1797-1
・Effects of hydrothermal reaction of sulfuric acid lignin from Cryptomeria japonica for industrial utilization. BioResources, 13(4), 7805-7823 (2018). DOI: 10.15376/biores.13.4.7805-7823
・Hydrothermal reaction of sulfuric acid lignin generated as a by-product during bioethanol production using lignocellulosic materials to convert bioactive agents. Industrial Crops and Products, 42(March), 181-188 (2013) DOI: 10.1016/j.indcrop.2012.05.030
・Conversion of sulfuric acid lignin generated during bioethanol production from lignocellulosic materials into polyesters with ε-caprolactone. Journal of Wood Science, 57(3), 214-218 (2011) DOI: 10.1007/s10086-010-1158-6
・Solubilization and functionalization of sulfuric acid lignin generated during bioethanol production from woody biomass. Bioresource Technology, 100(2), 1024-1026 (2009). DOI: 10.1016/j.biortech.2008.07.026


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燃えない樹脂

工業的に得られるクラフトリグニンから燃えない樹脂を製造しました。

難燃樹脂



PCやプリンターなど多くの電化製品が身近にあります。現在、その筐体に使われるプラスチックを「バイオベースポリマー」に 置き換えようとする研究が盛んに行われております。
これら電化製品のほとんどは内部電源を持っていることから、常に発火の危険性を有しており、筐体には高い難燃性が求められております。
難燃性を有する「バイオベースポリマー」の開発を進め、クラフトリグニンからイントメッセント系の難燃樹脂の開発に成功いたしました。

・A biobased flame-retardant resin based on lignin. Advanced Sustainable Systems, 1(10), 1700073 (2017) DOI: 10.1002/adsu.201700073.
・難燃性樹脂組成物の製造方法,特許番号6098800
・Flame retardant resin composition and molded products, 特許番号CN104031362 (B)
・Flame retardant resin composition and molded product, 特許番号CN103415573(B)
・難燃性樹脂組成物及び成型体.特許番号5842526
・Flame retardant resin composition and molded product, 特許番号KR101552414(B1)
・Flame retardant resin composition and molded product, 特許番号US8796363-B2


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電気の力でバイオポリマー

米ぬかや麦わらなどの農産廃棄物中には、有用なフェノール性成分が多く含まれています。その中のフェルラ酸は、 抗菌性、抗酸化作用、消炎性、および抗癌性を持つことが知られており、食品や医療分野で使用・研究されています。 フェルラ酸の更なる利用用途拡大をめざし、電界重合によるフェルラ酸薄膜ポリマーの創製を目指しました。

電解重合


・Bio-based polymer from ferulic acid by electropolymerization. BioResources, 11(4), 9789-9802 (2016). DOI: 10.15376/biores.11.4.9789-9802
・Electropolymerization of coniferyl alcohol. Journal of Wood Science, 55(5), 344-349 (2009). DOI: 10.1007/s10086-009-1037-1


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